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2017年12月

矢内原忠雄「田村清君のクリスマス」

家貧にして孝子現はれ、
国乱れて忠臣現はる。
身貧しくして病み
土の器保ち難くして、
恩恵の宝珠光を放ち
福音の力は鮮かである。

北海道登川の奥谷地に住む
日傭稼ぎの子の日傭稼ぎ、
年僅か二十一、結核の
病膏肓に入りて完き処なけれど
救はれし生命五体に溢れ
歓喜の歌は抑へられなかつた。

今日しも待ちに待ちしクリスマスは
登川病院の一室にて開かれる。
雪降り積りて膝を没し
風寒うして膚を刺すが、
心は既に楽しき群に走せ
母に支へられて彼は家を出た。

半里の山路やうやく辿りて
目ざす町の灯眼をよろこばせ
主の名によりて集ふ三、四人の友の
彼を待つ家も手近であつた。
その時早く彼の力は尽きて
崩るる如く雪の中に倒れた。

通行の者急を報じて
馳せつけた父に彼は背負はれ、
親子三人の涙点々と
踏む白雪にあとを残しつつ、
坂を上つて己が小屋に帰り
星を板壁の隙間から仰いだ。

其夜教会堂は美々しく飾り、
紳士淑女又奢れる児等
音楽に劇に花やかであつた。
その騒がしき世俗の音に、
ナザレのイエスは立ち入るに躊躇し
幾つもの門を素通りにした。

而してイエスは雪に埋れし
田村清の側に馳せ寄り、
母よりも早く彼の頸を抱へ
父よりも早く彼を背に負ひ、
しかと彼を守りてその小屋に導き
夜の明くる迄彼と共にあつた。

ベツレヘムの馬小屋に
イエスの生れ給ひし夜輝いた星が
その夜彼の小屋の上に輝いた。
彼の心は平安にみちて天かけり、
力尽きし身にさへ生命溢れて
軽く浮き上るかと思へた。

イエスはおのれを信じたる者の
かく貧と病との中に
生命の勝利を喜ぶを見て、
おのが生れし日を彼と共に祝し
父なる神に感謝し給うた、
かくて平和と栄光彼の小屋に満ちた。

矢内原忠雄『信仰と人生 キリスト者の信仰Ⅶ(岩波書店)より。

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