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ハーバート・ビックス『昭和天皇』(講談社学術文庫)を読み終えて

昨日、長きに亘って読み続けていたビックス『昭和天皇』を読み終えた。
米国人の視点で昭和天皇の言動、事績を厳しく捉えたこの書、
自分が知らなかった事実や昭和の陛下の言動について
そういう捉え方もできるのかと教えられたことも多いが
読み進めていくうちに著者の「共和制=善、君主制=時代遅れ」の
イデオロギー的断罪が目立つようになった。

とりわけ戦後の日本の復興への努力を二重基準だのと片付け
一部を除いて恰も陛下から国民まで皆が
自己欺瞞だけに生きていたかのような解釈には
「日本の65年の歩みをかくも軽く断罪できるとは」と驚いた。

「君主制を彼ら自身の統合の『象徴』にいただくかぎり、
国民は天皇から解放されないということだった。
天皇の戦争責任を追及しないことで、
国民は自分の責任追及を回避したのだった(第17章)」

この書の目立つ点は、昭和20年8月14日の御前会議での
陛下の御発言や、昭和63年4月に記者達が
最後に陛下に拝謁した時の御言葉など
陛下の明確な平和志向の言動は全く取り上げないか矮小化し
また日本国民の多くが自己憐憫だけに捉われていたかのような描写である。

日本国と国民は、敗戦後、日本国家の意思としての戦争を通じて
他国民を殺したことはただの一度もない。
そのような国家とならしめたのは国民と為政者たちの努力の賜物である。
自己憐憫と被害者意識だけの国家国民にそれが可能だろうか?

著者ビックスはしきりに米国と陛下や日本保守派との「共謀」を説くが
自国の防衛を否定された日本が生存する道は米国依存だったというのは
寧ろ最も国家国民の為の選択であったろう。

ビックスはヴェトナム反戦世代の人らしいが、
自由な共和制国家である筈の自国がその後も他国への戦争を繰り返し
イラク戦争に至っては「イラク人を助けたいのです」と大統領が明言し
その結果数十万人を殺戮し、そしてその大統領は
何の制裁も受けていないことについては
どう釈明するのだろうか?ビックス当人は或いは戦争反対派だったかもしれない。
しかし、日本国民をかくも苛酷に断罪したその論法を以てすれば
「あなたは主権者米国国民の一人として戦争を阻止できなかった責任がある。
イラク人が米軍の大空襲で一方的に殺戮されている時に
米国で安全な生活を享受していた罪責がある」
と問い詰めてもいいだろう。

示唆には富むが、批判的に読むことをお勧めする歴史書である。

また、イデオロギー的にはビックスと同じ立場にたつ吉田裕は
解説で各国君主の国際比較の必要性を説いていたが
これには賛成である。

皇太子時代の昭和天皇に具体的に影響を及ぼしたジョージ5世や
ニコライ2世、ヴィルヘルム2世、フランツ・ヨーゼフ1世らが
戦争による惨禍にどう向き合っていたかを今後研究者には
詳細に研究してもらいたい。

私見では、昭和天皇とその姿勢に大きな違いはないはずである。
ニコライ2世は戦争の継続が国民に大きな惨害を強いていることを
十分に承知でありながら退位時の詔書においてすら
「臨時政府に協力して戦争に勝利するように」と国民に呼びかけた。
祖国の栄光を国民の凄惨な犠牲より上に置くのは
当時の君主たち、為政者たちの共通した姿勢である。

それが良いと私は言うのではない。
そのような価値観とは訣別したいというのが私の思いである。
しかし、そのような価値観が当然だった時代の理解なくして
歴史を記すのは難しいだろう。それを抜きにすると
歴史上の人物の伝記は概ね断罪に次ぐ断罪で終わるであろうから。

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コメント

天皇入れ替わり事件は2回も起こっており、百済からの血統も入ってきています。
その内、明治維新においては、朝廷派に英国からの戦争諸費用が入っています。

これは、天皇家をコントロールし、他の王族や皇族と同じような帰結を白人至上主義者が望んだからに他なりません。

本来、アジアの中では(消滅した中国皇帝がアジア全王室のトップなので)、日本の皇室は「王室」でしかありません(中国あ日本天皇を「日王」としか表記しない)。だから、中国皇室が消失した事で『ラストエンペラー』なる題名のハリウッド映画が国際的にヒットするのです。

元々、日本国民の犠牲を厭わなかった事から、世界大戦時の原爆投下の「東京」「京都」対象が外されているのです。
実際、原爆投下を昭和天皇が予め承知していたのは有名です。


こんばんは。
仰る点で、どのような史料を根拠にされたのか、よく把握できない事があります。

思想は各自さまざまあることでしょうが、歴史的事実については信頼できる書物を読まれることをお勧めします。

>日本国と国民は、敗戦後、日本国家の意思としての戦争を通じて他国民を殺したことはただの一度もない。

冗談はやめてくださいませんか?
朝鮮戦争からベトナム戦争からイラク戦争まで、多くの戦争に参戦して他国人民を虐殺してきたことを知らないとでもおっしゃるのですか?

太平洋戦争が自衛のためだったというなら北朝鮮の領土拡張も容認しなくてはなりません
また日本が先制攻撃されても文句を言えません
なぜならそれも一方的な制裁を打破するための防衛策だからです

こんばんは。

「共和国」は大日本帝国を引き合いにしなければ自己弁護できない程に
「落ちぶれて」しまったのでしょうか。

大量無差別殺戮兵器である核兵器を
アメリカと張り合って自慢するほどに北朝鮮は既に落ちぶれてしまいました。

そして私はアジア・太平洋戦争は自衛戦争だったとは思っておりません。
侵略に次ぐ侵略の果てに窮地に陥った我国が更なる侵略で罪を重ねた、
そう思っております。

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